地下足袋山中考 NO25

<森吉山スキー場の変遷G ゴンドラ観光の行方>

北秋田市は平成23年度当初予算に、ゴンドラ運行費補助金12百万円を計上した。生き残った阿仁スキー場の最終章は市営化に衣替えし、NPO森吉山が指定管理者となり運営する。全盛期で冬期7万人を越えた集客力は、H21年度は38,097人に激減、夏季運行も12,615人と伸び悩んでいる。過疎化と団塊ジュニア世代が去った今日、圏域に頼ったスキー客の復活は困難であろう。スキー場が阿仁地区のにぎわいや秋田内陸縦貫鉄道、あきた北空港の需要創出に結び付くのか、それとも負の資産となるのか、無償譲渡を機にゴンドラ観光の課題を整理しこの章を閉じたい▲現在、全国の国定・国立公園内には約35余りの一般索道(ロープウエー、ゴンドラ等)が運行し山岳観光の一翼を担っている。その多くはスキー場に併設された索道を一般観光や登山に利用する併用施設で、一般観光専用施設は北海道の有珠山や函館山、九州の別府や阿蘇山ロープウエイなど4施設と少ない。中でも、深田久弥の「日本100名山」にアプローチする索道施設は約28施設で8割を占め、大雪山、十和田八幡平、蔵王、磐梯吾妻、上信越、日光、中部山岳、飛騨木曽川などの国立・国定公園の人気の高い20峰にアプローチしている。施設は環境庁が1971(H46)年に発足する以前の規制が緩やかな昭和30年から45年までに完成した、高度経済成長期から続く老舗の索道施設である。いずれも温泉郷を有し、一般観光や百名山詣でを取り込んだ集客力は、日本山岳リゾートベスト20に君臨している▲一方で、リゾート法の推進やバブル全盛期にスキー場、ゴルフ場、リゾートホテルを核に拡大した北海道のアルファーリゾート・トマムスキー場、岩手県の安比高原スキー場や夏油高原スキー場などは、売却や運営譲渡を繰返しながらも、大きな宿泊キャパを武器に宿泊拠点を目指す努力が続いている。昨シーズンから休止した長野県の御嶽山ゴンドラスキー場は、今年7月から登山運行で生き延びを図る。全国のロープウエイやゴンドラの運営は、山岳フィールドを併せ持った名山観光を抜きには生き残れない構図が読み取れる▲日本の登山人口は、2000年の950万人から2005年は650万人に減少したが、2008年から中高年層に続き若者の間で登山に親しむ人が増え、2009年は前年比2.1倍の1230万人()社会経済生産性本部レジャー白書2010)と推計されている。その実感は定かでないが、特に「山ガール」と呼ばれるファッショントレンドを楽しむ若い女性の姿が多くなったことは確かである。スキー場やスパリゾートで満たされない、五体五感で体験する散策やトレッキング、本格登山を目指す自然志向の流れは国内に止まらず、いづれ韓国、台湾、中国などアジア圏に伝播し、世代間を超えたデスカバージャパンの山岳観光需要を掘り起こすに違いない。その時、森吉山は選ばれているだろうか▲温泉郷には至らずとも、日本200名山とNHK/BSの花の百名山に名を連ね、山麓にはブナ林とあまたの渓流・渓谷・名瀑群が存在する。が散策路の整備は一向に進まない。その時、ゴンドラは存続しているだろうか。いくつかの課題がある。@標高1500m足らずの1200m地点にゴンドラが到達し半日登山が可能なため、ツアー観光の「おまけコース」に甘んじているA「ゴンドラ観光」イコール「集中と混雑」のイメージが強く、宿泊を前提とする縦走登山客に敬遠されやすいB打当温泉に直結する中村コースが全く生かされていないC雨天時のリカバリー情報がないDゴンドラ観光一辺倒に傾注するあまり、奥阿仁・奥森吉という概念(広がり)が行政や指定管理者に希薄であるE山麓の宝や魅力、縦走やトレッキング情報の共有が決定的に足りないF登山道や縦走路の整備が進まない▲何よりもゴンドラの名称変更が必要である。北海道の層雲峡や旭岳ロープウエイは、上川や東川ロープウエイとは呼ばない。ゴンドラに住所名が付くのはここだけである。なぜ森吉山ゴンドラに呼称できないのか、ローカルなテーマが横たわっている。(2011.3.31